福島県にある東日本大震災の避難者の仮設住宅で、筑波大学などが運動指導や血圧管理の健康支援プロジェクトに取り組んだ。生活習慣病や筋力低下、寝たきりになるのを防ぐ狙い。約半年間で、体力の指標が若返るなど効果が明らかになった。これは仮設住宅に限らず、広く一般の高齢者にも共通する健康づくりという。
4月26日、このプロジェクトのイベント「スマイルアゲイン2 チューリップの約束」が福島県の伊達市で開かれた。飯舘村の人たちが避難している仮設住宅の1カ所。昨年から丹念に育てたチューリップが咲く中、花の髪飾りを付けての記念撮影に始まり、成果報告会、最後はミニコンサートで盛り上がった。
体力年齢、若返る 「日を重ねるごとに改善し、健康が大切と感じた」「いつ村に帰れるかまったく見当がつかないが、元気に帰れるように、これからもがんばりたい」。先が見えない厳しい生活にもかかわらず、健康づくりに参加した住民からは前向きな声が聞かれた。
プロジェクトは筑波大と企業、健康のまちづくりに取り組む「Smart Wellnes City(スマート・ウエルネス・シティ)首長研究会」の伊達市などが昨年開始。さらに、特定非営利活動法人(NPO法人)のさくら並木ネットワークの人たちやシンガー・ソングライターの普天間かおりさんら、様々な支援の輪が広がった。
仮設住宅の生活が長期にわたると、精神的・肉体的疲労の恐れがある。ストレスが高く、一人暮らしだとつい面倒なので食事の栄養バランスも悪く、外出が減って運動不足になりがち。生活習慣病や筋力低下のリスクがある。
健康支援は昨年9月に始め、個人ごとに歩数や食事の目標を設定し、運動教室を開いて筋トレなども促進。歩数や血圧のデータを筑波大付属病院などに送信、医師らが現地の保健師にアドバイスした。79人が参加し今年3月までの効果を調べた。項目によって比較データ数は異なる。
まず開始時は実年齢が平均約70歳に対し、体力年齢は75.8歳。体力年齢はスタミナ、筋力、柔軟性で求めた独自指標。仮設住宅に移る前から車社会のため有酸素運動の歩行が少なく、体力年齢にマイナスだったと考えられる。
今年3月の体力年齢は72.4歳に若返った。6分間歩行の距離や歩行能力得点(いす立ち座りと6メートル最大努力歩行)の点数も改善。血液検査では、いわゆる善玉コレステロールの増加、悪玉コレステロールの減少、栄養状態を示すアルブミンの改善がそれぞれ統計的に有意に表れた。
寝たきり予防へ 「仮設住宅は日本の生活スタイルの縮図だ。特に高齢者」とプロジェクトリーダーの久野譜也・筑波大教授は指摘する。生活習慣病になれば脳卒中などの恐れがあり、筋力が低下すれば転倒、骨折の危険もある。これらは寝たきりになる主要な原因。プロジェクトの健康づくりは一般にも当てはまるわけだ。
「高齢者の寝たきり予防には有酸素運動と筋トレの両方が必要」(久野教授)。一定以上の歩行は硬くなった血管を軟らかくし、脳卒中などのリスク低減につながる。目安は1日9000歩。毎日9000歩ずつの必要はなく、1日に2日分歩いて翌日は休むなど、1週間に分散してもよいという。ただ、歩行は筋力維持には役立たないので、筋トレも欠かせない。
また、筑波大病院の山縣邦弘教授(腎泌尿器内科診療グループ長)はデータを「続けて測って、記録に残すことが大切」と強調する。参加者全員では血圧に有意な改善はなかったが、歩数をさぼらず記録・送信していた人に限ると改善していた。
記録することと血圧に直接の因果関係はないが、記録する人はそれ以外の面でも健康意識が高いと考えられる。「記録は自分の励みになるし、健康づくりに向けて良い習慣を身につける行動変容の一つ」と山縣教授はみる。
健康支援では、用事がないと外出しなくなりがちなので、集会所に足を運んでデータ送信してもらうなどの工夫もした。1人ではなく、週に1、2回でもみんなといっしょにやることも大事という。仮設住宅でがんばっている人たちを思いながら、健康づくりに取り組んでみてはどうだろう。
平成24年5月27日(日) 掲載