- 開催期間2010年11月27日(土)〜28日(日)
- 開催場所筑波大学神保町キャンパス
- 主催Smart Wellness City首長研究会
- 共催筑波大学
- 後援内閣府
イントロダクション
Smart Wellness City(SWC)首長研究会は、共通の意識を持った複数の自治体が「健幸」をまちづくりの基本に据えた政策を連携しながら実行することにより、持続可能な新しい都市モデル『Smart Wellness City』の構築を目指すという理念のもと平成21年11月に発足した。今回で第3回目を迎え、7府県10市の首長が一堂に会して、「自然と健幸になれるまちづくりのあり方」 及び「利便さと健康づくりの調和」等について活発な議論が行われた。
- 出席自治体
- 新潟県見附市 久住市長、三条市 國定市長、新潟市 篠田市長、福島県伊達市 仁志田市長、茨城県つくば市 市原市長、取手市 藤井市長、岐阜県岐阜市 武政副市長、大阪府高石市 阪口市長、兵庫県豊岡市 中貝市長、鹿児島県指宿市 豊留市長
1日目
SWC首長研究会会長、共催・後援代表者より挨拶
- 久住 時男SWC首長研究会 会長 / 新潟県見附市長 過去2回の研究会を経て、SWCが目指す健康づくりを中心に据えたまちづくりは、色々な方々からこれからの国のあるべき方策だということでご賛同をいただき、非常にありがたく思っている。また、内閣官房の方には省庁横断のサポート組織をつくって頂き、本当に良い流れになってきたと感じている。今の課題でなく、将来をみつめて、将来のために新しいものを創っていくというイマジネーションが必要な作業であるが、皆様の英知を集約して一緒になって乗り越えていきたい。
- 山田 信博筑波大学 学長 現在、筑波大学では大学のメッセージとして「IMAGINE THE FUTURE」という言葉を発信している。すなわち、未来をイマジンすることができなければ、未来を創造することはできないということを申し上げている。今後、我々は未来を見据えて日本から世界へ情報発信をしていきたい。知識基盤社会の中で、健康な長寿社会をつくっていくことは今後重要なイノベーションだと思っている。その中で、SWCのスマート・ウエルネスという言葉をとって、スマート・ウエルネス・イノベーションというのは良い言葉ではないだろうか。これからはこのSWC研究会でスマート・ウエルネス・イノベーションを進めていくということで是非がんばっていただきたい。
- 和泉 洋人内閣官房 地域活性化統合事務局長 人口減・高齢化社会はこれからの大きな問題であり、その意味でSWCで解決しようとしているテーマは重要である。今ある社会的な問題を解決するためには、イノベーションによる生産性の向上と女性の社会参加の促進、移民の受け入れ、そして高齢者がいつまでも元気に働ける社会づくりなどが必要であり、最も重要なテーマの一つである。ゆえに、この研究会でそれらの問題解決のための答えを出してほしい。私たちもSWCと連携しながらがんばっていきたい。
第3回研究会の目標アウトカムと地域の課題整理
- 久野 譜也筑波大学大学院 人間総合科学研究科 教授 / SWC事務局幹事 これまで健康に関して、個体に注目したエビデンスが蓄積されてきたが、最近ではその個体を取り巻く環境全体も健康に影響を及ぼすことがわかってきた。したがって、それらを全て含めた総合的な健康施策を展開することが必須であり、自治体で言えば一部局だけで解決する問題ではないということは明らかである。ゆえに、本会ではそのことを前提に議論していくことをご理解頂きたい。 第3回SWC研究会では、(1)便利さを追求しそれに慣れ親しんだ国民意識の改革、(2)社会として高齢者は弱者であるという一方的な固定観念から抜け出し、弱者の側面を持ちつつ、一方で老化に抗って機能増大できるポテンシャルも併せ持つ存在であることに対する理解の普及、(3)地域において社会資源としてのソーシャルキャピタルが機能し、日常の移動において自動車利用が減じられ、自然と歩き出したくなるまちの実現、(4)SWCイノベーションを可能とするために、データベース(EHR)やそこから生まれるエビデンスに基づく社会システム(サービス)が機能し、それに地域や職域及び国民がそれぞれの立場で投資する環境整備の実現、(5)(1)〜(4)の確実な推進を可能とする自治体における人材力の向上、という5つのポイントについて議論を進めることとする。
新規参加自治体の挨拶
- 豊留 悦男鹿児島県 指宿市長
- 指宿市では、IT湯治や平成23年4月から開始されるメディポリス指宿構想を始めとして予防医学や健康増進等を目的としたまちづくりを進めている。SWC研究会の目指すまちづくりと指宿市の目指す方向が一致していると感じ、今回から参加させて頂いた。この会の皆様と多くの情報交換を通してまちづくりを進めていきたい。
- 阪口 伸六大阪府 高石市長
- 高石市は団塊世代も多いが、団塊ジュニアも多く住んでおり、認定子ども園など子育て環境の充実を図ったことが功を奏している。医療費の増大に伴って保険料を上げざるを得ない環境にあるため、健康施策を充実させるべく、スポラ高石という総合健康施設を中心にウォーキングロードの整備を行っている。日本の未来は明るい、元気を取り戻そうということをSWC研究会でともにやっていきたい。
参加自治体におけるSWCの進捗状況
- 久住 時男新潟県 見附市長 健康になれるまちづくりのために、ハード(自転車レーン)とソフト(運転ルール、指導者育成)の両面の整備に取り組んでおり、今後実証実験を通して歩行者の増加や医療費の削減などのエビデンスを示していきたい。市全体としての健康施策の計画や効果の検証のためには、国保に限らず社保も含めた「健康関連情報の一元化」が不可欠である。
- 武政 功岐阜県 岐阜市副市長 河川空間を活用したジョギングコースの整備等により市民の健康づくりを支援していきたいと考えている。豊岡市と連携した地域ICT事業として、健康教室とデジタルフォトフレームを用いた、ヘルス・リテラシーとソーシャル・キャピタル介入事業や、国土交通省との連携による歩きやすいまちづくりについての調査を行っている。
- 國定 勇人新潟県 三条市長 ブランディングイメージを具体化し、高齢者イコール社会的弱者ではなく高齢化をむしろ誇らしく捉え、高齢者が主役となり明るく楽しく生活できるまちづくり(暮らしの場、にぎわいの場づくり)を行いたい。「知的支援基盤」(規制緩和、基礎データの収集、研究機関等との連携)を市の中心に置き、狭義・広義の健康施策を展開していきたい。
- 中貝 宗治兵庫県 豊岡市長 健康政策は、社会保障費の削減、コミュニティの維持のためにだけ行われるのではなく、「お互いに限られた大切な命」への共感のための政策であるべきであり、市民へは「健康は素敵だ、健康づくりは楽しい」という視点でのアプローチが必要である。市では、市民意識の変革とまちのあり様の変革に多角的に取り組んでいるが、健康政策からまちづくり政策への転換が重要である。
- 仁志田 昇司福島県 伊達市長 職員および市民の健・幸マインドの醸成が最も重要であり、職員の意識改革とともに住基カードやインセンティブポイントの活用により健康を促すことや、「SWCの条例化」も視野に入れている。車社会から脱却し、歩いて暮らせるコンパクトな「ウェルネスコミュニティの構築」を目指し、共同住宅など住居環境の整備にも取り組んでいきたい。
- 篠田 昭新潟県 新潟市長 団塊世代の多い中核都市の高齢化は非常に深刻であり、新潟市も10年間で5万人高齢者が増加する見通しである。安心安全なまちづくりを行うために「ライフインフラの整備」が最優先課題であり、公共交通の強化、公民館でのコミュニティコーディネーターの養成、特別養護老人ホームの整備などに取り組んでいる。
情報提供 1「総合特区制度について」
- 青木 由行内閣官房 地域活性化統合事務局 参事官 総合特区の本質は、多くの政策課題を解決する上で突破口となり、実現可能性の高いものを取り上げ、成功事例をつくった上で全国に普及させていくことである。そのため、特区の要件として重要なことは、地域の本気度、運営母体の明確化、及び地域活性化を進める上で有効なシステム改革の提案である。特区提案の募集申請を行うに当たって、準備・調査等の日程が提示されているので、その工程にそって各自治体が準備して頂くことを期待する。
- 議論
- 総合特区は新しい公共のきっかけとなるのではないか、国と地方が夢を共有していくことではないか、そのためにも両者が連携をとり、夢の実現に向けてお互い本気で新しい仕組みの検討をしていく必要がある。
特別講演「イノベーションと地域活性化」
- 北城 恪太郎日本アイ・ビー・エム 最高顧問 今後の我が国の人口構造の変化と経済を考えると、新しい事業の創造が重要である。そこで、高い能力と意欲を有する若者の育成と、世界に通用するイノベーションの創出が必要である。しかしながら、イノベーションの創出にはリスクが伴うため、既存企業だけでは不充分で、ベンチャー企業が大きな役割を担っている。ベンチャー企業育成の基本は、支援することと、褒め称えることである。具体的な支援として、施設の提供や会計士・弁護士の支援、販売支援等がある。また、ベンチャー企業投資促進税制(エンジェル税制)という、ベンチャー企業へ投資を行った個人投資家に対して減税する、世界的に稀な良い制度があるのでこれを活用すべきである。世界市場での活躍を見据えたベンチャー企業が育成され、地方経済が活性化することを期待する。
情報提供 2「医療・健康分野における総務省の取り組み」
- 安藤 英作総務省 情報流通振興課長 新成長戦略に医療・介護・教育などの専門性が高い分野においても徹底したICTの利活用が盛り込まれている。また、ICT戦略本部の新たな情報通信技術戦略に、医療分野が多く書き込まれている。例えば、どこでもMY病院構想の実現、シームレスな地域連携医療の実現、レセプト情報等の活用による医療の効率化、医療情報データベースの活用による医薬品等安全対策の推進などがある。特に、どこでもMY病院構想の実現にむけてEHRの構築が進められている。 EHRを民間が作ることを推奨する意見もある。ただし、民間レベルで実施する場合は、ビジネスとして行われ、健康な市民(意識の高い者)向けの事業になる。EHRは健康増進のための社会的なインフラとして構築されるべきであり、複数の自治体が連携して地域間で情報の共有、活用をする必要がある。しかしながら、EHRを作ることだけではいけない。EHRはツールであり、積極的に活用することが重要である。そのためには、はっきりとしたエビデンスが必要である。総務省としては、SWCのようなプロジェクトが継続して続けられるような環境づくりを実施していきたい。
情報提供 3「総務省ICT利活用事業の成果 〜健康づくり脱落防止エンジンについて〜」
- 黒川 雅人つくばウエルネスリサーチ&日本アイ・ビー・エム 運動を継続することはなかなか難しく、特定の運動教室での画一的な指導では参加者を繋ぎとめることに限界がある。そこで、脱落しそうな参加者をその人の行動パターンから発見し、個別のサポート指導案を作成するプログラムを開発した。e-wellnessシステムには、総歩数や10分以上連続した速歩、自転車トレーニング、筋力トレーニングなど、様々な時系列の運動実行データが蓄積されている。このデータを用いて、参加者の期間毎の行動を数理モデルによってパターン分けし、パターンの組み合わせによって、その参加者が脱落する可能性を算出するモデルを作成した。今後は、教室参加者以外にも、一般住民の調査から得た行動データも追加する予定であり、更なる精度の向上が見込まれる。
1日目のまとめ
総合施策で横断的に施策展開すべきことは理解しながらも、実際に展開する場合に現在の制度や仕組みとして縦割りになりやすいのが現状である。この点をSWC研究会としてどのように解決し、システム化していくかについては二日目の総合討論の中で議論したい。また、EHRの推進について、国保と社保の保険データの一元化に関する課題、運用コストの問題等を含めて、SWCを実現するために本当に必要なEHRとは何かを具体化していかなければならない。この点については早急に具体的な議論を進めて来年度の総合特区の中でチャレンジしたい。最後にSWCの目指す「利便さと健康づくりの調和」について、二日目に議論したいと考えている。この調和のレベルをどこに位置づけるか、研究会の中でそのレベルを定めて社会実験を行い、SWCに至適なレベルを検証していく必要がある。
2日目
情報提供 4「健康とまちづくり」
- 神田 昌幸国土交通省 まちづくり推進課室長 これまでのまちづくりは健常者が対象であったが、高齢者が増加するこれからのまちづくりは高齢者や障害者を含めたそこに生活する人を中心に「歩いて暮らせる、自然と歩いている、歩きたくなる」が重要と考えている。国交省の調査によると人々が歩いていけると考える距離は1 kmであり、また、歩ける範囲に必要とされる施設は病院、福祉施設、スーパー、銀行等であった。従来の作る側の視点でのまちづくりから使う側の視点でのまちづくりへの完全移行が必要である。 超高齢社会に対応するためにもコンパクトなまちづくりが不可欠と考える。SWCとも連携しながら、健康・医療・福祉のまちづくり・みちづくりを推進していきたい。
- 議論
- まちづくり、みちづくりを行っていく上で歩道を占領している電柱をどうするか、交通規制をする際に警察の理解をどう得るか等々、現場の問題、課題や悩みが多くある。SWCで期待されるまちづくり事業を進めるためには自治体も住民も責任を持ち、積極的な参加を図るような仕組みも必要ではないか。
教育講演「糖尿病予防を可能とする地域体制とは」
- 坂根 直樹京都医療センター 予防医学研究室長 生活習慣の改善により減量を行うと、糖尿病の予備軍で40〜60%の糖尿病発症率の低下が期待できる。肥満者が6ヶ月間で4 kg減量すると、国保医療費は約30%低下する。この時、介入費用を差し引いても医療費軽減効果は十分にある。これらのエビデンスを健康指導現場で適用させるためには、まちぐるみで取り組みを行う必要がある。糖尿病予防を普及・啓発するためには、現場で適用できる効果的なプログラムの開発、さらには保健指導に卓越した保健医療従事者の育成が重要である。
総合討論(総合特区などの準備に向けて〜key word:健幸なまちを実現するためのまちづくりとEHR整備)
- 健幸なまちを実現するためのまちづくり・みちづくりについて
- 車道や歩道などのハードの変更・整備について
- 二車線のうち一車線を歩道にする、四車線を二車線にする、又はまちの中心部には必要な車以外は入れないようにすることで、歩いて暮らすみちづくりにトライしたい。この際に、住民、議会、警察の説得は不可欠であるが、SWCのコンセプトを理解してもらい、協力しながら変えていく手順を踏むことで実現可能となるだろう。また、みちの舗装や駐車場の位置を変える等の見える形で住民に気づきを与えることも重要となる。
- 住民の意識をコンセプトチェンジするための条例化について
- 動かない人をどのようにして動かすか、その具体策の一つに条例化がある。条例という形で住民に対してシンボリックな刺激を与えることで、長期的な視野で住民の意識をコンセプトチェンジできるのではないか。
- EHRの整備について
- 自治体における住民の健康データ集積の現状と必要なデータベースについて
- 自治体が確認できるのは国保のデータだけで、社保のデータは見られない。就労層が引退して国保に移行してくることを考えると、自治体としては国保と社保データが一元化されたデータベースが理想である。また、匿名化は重要であるが、ヒモづけられないデータでは縦断的な分析が不可能であるため、ヒモづけられるデータベースが求められる。
- EHRの実現可能性と標準化、健康サービス認証機関の設置について
- EHRは広域で実施することでランニングコストを下げられる。SWCの複数の自治体で連携して進めることでサステナブルなシステムが実現可能となる。アウトプットイメージ、セキュリティ確保、及び標準化も重要である。標準化についてはSWCから提言したい。また、健康サービス認証機関も必要であり、現時点で筑波大学に認証機関を設置する予定である。
Smart Wellness City首長研究会 平成23年度行動指針
規模が小さく、健康意識の高い人が中心で、評価をしない健康づくり事業のような「アリバイ」づくりから脱却し、「個人の意識の変革」とそれを支える「社会の仕組みの構築」に向けて、科学的にプロセス&アウトカム評価をしながら推進し、next 10年の自治体モデルを自主財源で構築する。
- SWCの視点に立った「健幸まちづくり総合計画」の策定
条例化へのトライ - 自動車利用を減じ、自然と歩きたくなるまちのハードとソフトの整備
戦略的な歩道、自転車道整備 & 景観整備(片側1車線道路の一方通行化による歩道拡張と自転車道創設)、住民の健康づくりを加速させるインセンティブ制度の創設、住民のコンセプトチェンジの広報戦略(ヘルスリテラシー、ソーシャルキャピタルの向上) - 自治体における評価に基づく健康政策を可能とする健康クラウド(EHR)の整備
保険者間の垣根を取り払った特定健診データおよび医療費データの一元化、過去から将来の健康・医療施策が地域力や自治体財政に及ぼす影響の見える化(「健幸バランスシート」の開発)、健康サービス認証機関の創設及び制度設計 - 総合政策を遂行できる職員の養成(広域での取り組み)
総括
健康寿命を延伸し、地域全体が健康に投資する社会システム作りのためには、まちそのものを総合的に変革し、住民が自然と健康になるような仕掛けが必要である。そのためには現在のまちの構造だけでなく、住民の意識も含めて大胆にコンセプトチェンジをしなければならない。第3回となった今回は、第1回のSWC共同宣言、第2回の行動指針から一歩進み、SWC実現に向けて、市民マインドを醸成する一つの手段としての条例化、知的支援基盤としてのEHRの構築、またそれに伴う国保・社保等の健康情報の一元化など総合特区制度を利用して社会実験を行うための具体的な提案がなされた。今後、実証実験に向けてより詳細な議論と取り組みが実施されることが期待される。